知る
編集天体観測とは、惑星・衛星・星雲・星団・銀河・流星といった天体を、肉眼・双眼鏡・望遠鏡・写真撮影などの方法で見ることです。この他、宇宙には太陽以外の恒星もありますが、それらは望遠鏡を用いても点にしか見えません。天体観測は様々な目的で行われますが、この記事では天文学や天体物理学、惑星科学などの専門家ではない一般の人が楽しみの為に天体観測をしに行くことを前提に話を進めます。太陽や月など極一部の天体を除き、天体観測は夜にしか行うことができません。また、地域によっては決して地平線上に上がらない天体もありますし、都市部では夜間でも人工の照明が多いため空が明るく、暗い天体は見ることが難しくなります。そのため、観測の目的に応じて適切な観測場所・観測時刻を選ぶことが必要となります。
準備する
編集双眼鏡で観測する
編集双眼鏡は両目で天体を見ることができるため、目が疲れにくいのが特長です。また、肉眼で見た通りの向きに見えるのも利点です。一方で、望遠鏡と比べると倍率は低く、暗い天体や細かい構造は見えにくいです。天体観測に向いている双眼鏡は倍率が7倍から10倍程度、口径が50mmから70mm程度のものです。双眼鏡は専門店の他、大きな家電量販店やカメラ店、インターネットなどで購入することができます。
望遠鏡で観測する
編集望遠鏡は双眼鏡と比べると倍率が高く、暗い天体や細かい構造まで見ることができますが、双眼鏡より高価で大型になります。また、見られる像は通常、肉眼で見られる向きと比べて上下左右が反転します。望遠鏡を選ぶ際に重要なのは倍率より口径です。口径が大きくなるほど暗い天体や細かい構造が見られるようになります。倍率は口径をmm単位で表した数値の2倍を超える値にしても暗くぼやけて見えにくくなるだけです。例えば100mmの望遠鏡なら200倍が限度と考えてください。また、口径が大きくなると屈折式より反射式を選んだ方が良い場合が多くなります。200mmを超える望遠鏡を個人で購入する場合は、ドブソニアン式と呼ばれる方式を選ぶことになるでしょう。
写真で撮影する
編集天体を写真で撮影する際には、デジタル一眼レフカメラが必要になると考えてください。コンパクトデジタルカメラ、ましてや携帯電話のカメラでは本格的な撮影はできないと考えてください。基本的には、シャッタースピードはできるだけ遅く、絞りは開放に設定します。暗い星雲や銀河、細かい地形を撮影する際には、望遠鏡に一眼レフカメラを取り付けて撮影することになります。その際、撮影中に天体が動くことを避けるため赤道儀という道具を購入する必要があります。
観測地を選ぶ
編集天体観測を行うに当たり、第一に考えたいのは人工の明かりの少ない場所を選ぶことです。それに役立つのが[1]などの光害マップです。白が一番人工の明かりが多い場所で、東京、名古屋、大阪、福岡、仙台、札幌などの大都市はこれに該当していることが分かります。中には、1等星すら見えるか怪しい場所もあります。このような場所は第一に避けるべきです。赤、黄、緑、水色、青、灰、黒と色が変化するにつれて人工の明かりが少なくなっていきます。一番人工の明かりが少ない黒では、天の川が影を落としたり、黄道光が全周にわたって見えたりと、降るような星空を味わうことができますが、日本国内でこれに該当する場所は吐噶喇(トカラ)列島や西表島など一部の離島に限られます。次に人工の明かりが少ない灰色も、本土で該当する場所は高知県の足摺岬・室戸岬周辺、青森県の白神山地周辺、北海道の日高山地や天塩山地などに限られます。このような場所に行くことが叶わない場合は、本州にも広く分布する青や水色の地域を目指すのが良いでしょう。これらの地域でも天の川やアンドロメダ銀河(M31)などは十分に見られます。
日食など特定の地域だけで見られる現象を観測したい場合は、当然ながらその地域に向かう必要があります。日食の場合、国立天文台暦計算室のホームページから見られる場所を詳しく知ることができますから、なるべく皆既日食や金環日食が長時間継続する場所に向かいましょう。
この他注意すべきなのは、その地点で観測したい天体が地平線上に昇るのかという点です。例えば南十字星の全貌を見たければ、沖縄本島以南に行かなければなりません。もっと南にある大小マゼラン雲などになると、日本国内では見ることができず、ベトナムのホーチミン辺りまで行かなければ十分な高度で見ることはできません。天の赤道より南にある天体は、北緯が90度からその天体の赤緯を引いた値を超える場所では観測できません。例えば、南緯60度にある天体は北緯30度以南でしか観測できません。天の赤道より北にある天体はその逆です。地平線沿いにある天体は雲の影響を受けやすく見ることが難しいですのでなるべく余裕を持って観測地を設定しましょう。
天体の位置を知る
編集当然ながら、その天体がどこに見られるのか分からなければ天体を観測することはできません。天体が見られる場所、時間帯を知る古典的な方法は星座早見盤ですが、これに掲載されている天体は限られている上、恒星の間で位置を変える惑星は掲載されていません。また、地平線付近では形が大きく歪んでいます。そこで必要になるのが、パソコン用の天文ソフトです。スマートフォンで似た機能のあるアプリもありますが、どうしても機能が少なくなるため推奨しません。無料でダウンロードできる天文ソフトには、Stella Theater Lite、Mitaka、Stellarium、つるちゃんのプラネタリウムなどがあります。このようなソフトは、基本的にインターネットに繋がらない場所でも使用することができます。
行く
編集計画を立てて、いざ観測の為に旅行することになりますが、自家用車ではなく公共交通機関で向かう際には、天体望遠鏡などの大きな荷物のサイズが規約通りになっているか確認しましょう。もし規約をオーバーする場合、分解して現地で組み立てると良いかもしれません。
見る
編集観測する場所には昼の内に着いておくようにしましょう。人工の明かりが少ない場所を選んでいるはずですので、夜になってからの移動は危険を伴います。そして、周囲に天体観測を妨げる光源になるものがないことを確認しましょう。日が沈んでも、すぐに観測を開始できるわけではありません。太陽が沈んだ後は薄明と呼ばれる状態になります。薄明には常用薄明、航海薄明、天文薄明の3段階があります。日本付近では常用薄明は日の入りから30分程度、航海薄明は日の入りから1時間程度、天文薄明は日の入りから1時間半程度です。航海薄明が終わった辺りで感覚的には真っ暗になっていますが、淡い天体を観測するのにはまだ暗さが不十分で、天文薄明が終了するまで待つ必要があります。日の出前も同様に、1時間半前頃から徐々に淡い天体が見えなくなってきますので注意しましょう。
暗さに慣れた状態で電子機器のディスプレイを見ることは天体が見えにくくなるため避けてください。天体ソフトの画面などは事前に印刷しておき、赤いセロファンを張った懐中電灯を使ってみるようにします。もし、どうしても観測中に電子機器のディスプレイを見る必要がある場合は、電子機器の明るさを落とし、ブルーライトをカットするモードがあれば活用しましょう。
食べる
編集人工の明かりが少ない観測場所を選んだ場合、近くに自動販売機や商店はないでしょう。そのため、食料は事前に調達しておくようにしましょう。
泊まる
編集天体観測は夜間に行うものですので、ほとんどの場合宿泊施設に宿泊することが必要になるでしょう。宿泊施設は必ず事前に予約を済ませておいてください。また、遅い時間までチェックインしないと予約が取り消される場合があります。何時までにチェックインしなければならないか事前に尋ね、余裕を持って観測を終えて移動するようにしましょう。また、同じ宿泊施設に連泊する場合は、宿泊施設と観測場所の間の移動方法を明るいうちに確認しておきましょう。
健康や安全に注意する
編集天体観測に熱中していると自然に昼夜逆転生活になってしまいますが、これは体調を崩す原因になります。いつまでも観測を行っていたい気持ちも分かりますが、例えば1晩目は午後8時から午後12時まで観測する、2晩目は午前0時から午前4時まで観測する、のようにしてなるべく夜間に睡眠をとるように心がけましょう。また、夏場でも高地の夜は想像以上に冷え込む場合があります。必ず上着を持っていくようにしましょう。また、山間部には危険な野生動物がいる場合があります。その上、人工の明かりが少ない場所ですので非常に気づきにくいです。鈴などを持って警戒するようにしましょう。